地域に根ざしながらも、その人気は全国へと広がり、多くのファンに愛され続ける広島東洋カープ。市民球団として歩んできた同球団にとって、ファンとのつながりは何よりの財産です。一方で、その高い人気ゆえに、公式戦チケットの販売日にはアクセスが集中し、販売サイトが安定して機能しないという課題を長年抱えていました。本記事では、同球団がそうしたこの課題にどのように向き合い、Queue-itの導入によってファン体験と運用効率をどのように改善したのかを、同球団およびそのシステムパートナーであるTSSソフトウェアに伺いました解説します。
20倍
1時間あたりの処理件数増加比
100%
2024年(導入後)チケット販売時における稼働率
広島東洋カープ(以下、カープ)は、日本プロ野球において親会社を持たない独立採算の「市民球団」として知られています。戦後まもない時期、広島市民や地域経済界の「プロ野球チームをつくりたい」という想いから誕生した球団であり、その成り立ち自体が地域との強い結びつきを物語っています。
同球団の入場券部 入場券課でチームリーダーを務める西村彰吾氏は、「焼け野原からの復興の中で生まれたチームという背景もあり、広島の方々のカープに対する熱量は非常に高い」と語ります。実際、広島では「天気の話の次はカープの話」と言われるほど、日常に深く根付いた存在です。
その魅力は地域にとどまりません。進学や就職で県外に出た人々や、世代を超えて受け継がれる応援文化によって、全国に多くのファンが広がっています。特に2016年頃から人気が高まり、さらにコロナ禍で販売がオンラインに一本化されたことで、チケット販売時にはかつてない規模のアクセス集中が発生するようになりました。
今回は、西村氏と、同球団のシステムパートナーである株式会社TSSソフトウェア マネージャーの中川雅貴氏に、アクセス集中の課題にどのように取り組んだのかとその解決への取り組みについてお話を伺いました。
カープでは、毎年3月1日に年間72試合分のチケットを一斉販売しています。年々高まる人気とオンライン化の影響により、販売開始と同時に膨大なアクセスが集中する状況となりました。
「エラーを含めると1分間に6万アクセスに達し、サーバーの許容量を大きく超えていた」と中川氏。メモリ増設やサーバー増強、受付時間の調整など、あらゆる対策を講じたものの、効果は限定的でした。
その結果、販売のたびにサイト入口でアクセスが滞留し、購入画面まで進めない状態が常態化。問題は単なるシステム負荷にとどまりませんでした。
西村氏は、「ファンの方が『買いたいのに買えない』という状況は、球団として非常に心苦しいものだった」と振り返ります。問い合わせが殺到し、SNSでは不満の声も広がるなか、「カープのチケット購入は一日仕事」と言われるほど、ファンに大きな負担を強いていました。運営側もまた、本来注力すべきファン体験の向上ではなく、対応業務に追われる状況が続いていました。
当時、現場ではあらゆる対策が試みられていました。中川氏はこのように振り返ります。
「試行錯誤しながら様々な策を講じていました。例えばサーバーを増強したり、状況に応じて再起動したり、接続をリセットしたり。また、購入プロセスの各段階におけるアクセス数を手動で制御し、購入まで進んだユーザーがスムーズに処理できるようにしていました。最適な設定を見極めるのは難しく、常に手探りの状態でしたね。」
「しかし、どれも効果は限定的で、抜本的な改善には至りませんでした。結局は販売当日にアクセスの波がキャパシティを大きく上回り、安定した運用を維持することが困難な状況が続いていました。」
こうした状況を受け、カープとTSSソフトウェアは、根本的な解決策の検討を決意。そこで出会ったのがQueue-itです。
西村氏は、「全国規模のスポーツイベントでの導入実績やプロ野球球団での導入事例を踏まえ、安心して任せられると判断した」と語ります。
「当時はサーバー分散以外に有効な打ち手が見出せない状況でしたが、その中で現実的な解決策としてQueue-itに可能性を感じた」とも振り返ります。
また、「導入の決め手は“安心感”だった」とも振り返ります。「初めて導入するサービスではあったのですが、Queue-it社員のサポート体制は素晴らしく、またこのシステムに対する彼らの強い自信を感じました。その結果、こちらとしても安心して任せることができると思えました。」
「導入前は、朝8時に販売開始しても、長時間エラーが続いてしまい、購入申込みが実際に入ってくるのは午後3時になることもありました。導入後は、この流れが大変スムーズになり、1時間あたりの処理件数は前年と比べて20倍近くになりました。」
株式会社TSSソフトウェア マネージャー 中川雅貴氏

また、待ち時間の可視化により、”今自分が列のどこにいて、どれくらい待つのか”が明確になり、不安の中でのリロード作業は不要に。結果として、待つという行為そのものが受け入れられるものへと変化しました。
「以前は、チケット購入に一日がかりで挑む方が多かったのですが、今は午前中に購入が完了するケースがかなり増え、ユーザーの満足度につながりました。さらに、スムーズに買えるようになったことで、『じゃあもう少し追加で買ってみようか』という声もありました。」
広島東洋カープ 入場券部 入場券課 チームリーダー 西村彰吾氏

また、メール通知機能も高く評価されています。順番待ちの間に画面を見続ける必要がなくなり、「その間に別のことができるという点で、時間の使い方そのものが変わった」と西村氏。ユーザーの利便性向上に直結する機能として、満足度の高さが伺えます。


カープのカスタムテーマ
さらに、中川氏は、ユーザー体験の他にも、システム側の心境にもかなり変化があったといいます。「チューニング対応もほとんど必要がなくなり、自信を持って現場に行けるようになりました。運用面でも、Queue-itスタッフにサポートいただきながら一年目で学んだことを二年目で活かせたこともあり、1時間あたりの申し込み件数は2025年にはさらに倍になりました。」
「以前はSNS上にエラー画面が晒されることもあり、その度に心苦しかった。ですが、エラーがなくなったことにより、アクセス障害に関する苦情も止まったので、心理的負担がかなり軽減しました。定量的にも定性的にも成果を実感しています。」
また、同球団はボット・不正対策のベーシック版も利用。「同じ端末からの複数アクセスや連続購入なども含めて、セッション管理の観点で一定の効果があったと感じています。本当に必要としている人にチケットが届きやすくなりました。」と中川氏は語ります。
最後に、西村氏は球団の展望をこのように語ります。
「インバウンドで日本を訪れる海外の方が増えている中で、広島という都市も注目度が高いと感じています。そうした方々にもカープの試合、日本のプロ野球を体験していただきたいです。また、今後、より多くのお客様に申し込んでいただけるためのコンテンツや催しを増やしていく中で、現在の公式戦チケット販売時のみではなく、さらにQueue-itを活用できる場面は増えていくと思っています。」
カープの取り組みは、単なるアクセス対策にとどまらず、「ファンにとって公平で安心できる購入体験」を実現するものでした。アクセス集中という不可避な状況の中で、いかに体験価値を維持するか。その問いに対する一つの答えが、今回のQueue-it導入と言えるでしょう。