Eコマース事業を成功させるには、単に集客力を上げるだけではなく、ブランド力を高め、顧客との関係性を強化することが欠かせません。その中で、大手企業がブランドロイヤルティを強化するために取り入れているのが「期待感」を高める戦略です。この記事では、期待感を活用したマーケティングの効果をご紹介します。
私たちは生活のあらゆる場面で期待感を抱きます。例えば、休日を楽しみに忙しい一週間を過ごしているときや、好きなブランドの新商品発売をワクワクしながら待っているときなどは、多くの人が何度も体験したことがあるのではないでしょうか。
何かを期待しているとき、私たちの感情や行動は「将来起こりうること」によって影響されます。実は、この“期待の心理”を上手に活用すると、下記のような効果がという研究結果が出ています。
- 購入までの間の興奮が持続する
- 手に入れたときの幸福感が増す
- 購入した時の体験がポジティブな思い出として記憶される
この記事では、期待感がビジネスにもたらす効果と、大手ブランドがどのようにこの心理を活用しているのかを紹介します。
期待感は、私たちの生活においてどのような役割を果たしているのでしょうか?神経心理学者のサナム・ハフィーズ博士はこのように述べています。「人は期待することで、将来に対して前向きになり、生きる原動力を得ることができます。…たとえ何か困難を抱えていたとしても、将来に期待を持つことで乗り切ることができます。」
休日、デート、買い物、食事、コンサート、スポーツ観戦、映画、テレビ番組など、私たちはあらゆるもの・ことに対して、期待を抱きます。こうした将来起こる出来事を楽しみにすることは、現在の幸福度とモチベーションにつながるのです。
期待感は、経験に基づいて無意識にうまれます。
12月が近づくとクリスマスが来ること、小包の発送案内を受けたらもうすぐ商品が手元に届くこと、列の2番目に並んでいたら自分が次にサービスを受けられるということ。私たちは毎日の体験から経験を重ねることで、起こりうる未来の出来事を予測できるようになります。
実は、この期待感の仕組みをビジネスに活用することで、ブランドロイヤルティを高めることができます。
優れた顧客体験を提供することで、顧客はそのブランドと、そのブランドの「質」に基づくイメージを関連付けるようになります。つまり、経験に基づいてそのブランドからは良い商品・サービスが得られるという期待をするようになるため、信頼性が高まり、再び利用してもらえる可能性が高くなるのです。
そして、一度ブランドへの信頼感が芽生えると、その後は自動的にポジティブなイメージをそのブランドと関連付けるようになります。
私たちが何かを購入するとき、そこには必ず期待が伴います。なぜならその商品やサービスがどのように役立つのか想定した上で購入するからです。そして、この期待値が大きいほど、買おうとしている商品やサービスに対する好感度が高まります。
ある研究結果によると、コーラを飲む人に対して、事前にブランド情報を与えた場合と与えなかった場合で、脳の活動にどのような変化があるのかを観察したところ、事前にブランド情報があった時のほうが、ポジティブな感情や記憶にまつわる脳領域の活動が増加しました。そして飲んだ後に「美味しかった」と答えた人の割合が、何も知らなかった人と比べて多かったとの結果が発表されています。
これは、被験者がブランド名を見て思い浮かべる親しみや喜びといった感情が、コーラを飲むという体験にポジティブな影響を与えたということです。
さらに他の研究でも、良い出来事を期待すると、それが実際に起こった時の幸福度が高まること、期待値が高いほどその出来事に関する記憶がより鮮明に残ることが証明されています。つまり、好きなブランドの商品発売やアイドルのコンサートチケット販売など、期待値の高い買い物では、衝動買いに比べて満足度が高まり、より思い出に残りやすくなると言うことができます。
このように、期待を生み出すことは、単に商品やサービスを販売するだけでは得られない顧客との接点を生むことができます。期待感がマーケティングにおいて重要な理由はまさにここにあります。
では、大手ブランドはどのようにこの期待の心理を活用しているのでしょうか?
Apple
毎年恒例のApple社による新製品発表。大々的に告知イベントが開催され、世界中から何百万人ものファンが集まります。
実際の告知から発売日までは通常3~4週間ありますが、その間にインフルエンサーなど限られた人が体験版を入手し、記事や動画をインターネット上に続々投稿します。これによりファンの期待と興奮が高まるため予約販売に多くの人が集まり、テレビのニュースになるくらい大きな社会的イベントとなります。
そして、新製品発売日も、Appleストアの前で行列に並んだり、スタイリッシュな店内で製品を購入したり、箱を開けて新機能について学んだりと、期待を裏切らないワクワクが続くのです。
発売から数週間経つと発売日ほどの盛り上がりはおさまります。だからこそApple社は毎年イベントと新モデルのリリースを繰り返すのです。つまり、Apple社はこの「一大パフォーマンス」ともいえる戦略を通して、期待をあおり販売促進につなげていると言えます。
Nike
Nikeをはじめとするスニーカー業界も、期待感をうまく取り入れている代表例です。
Appleと同様、定期的に新しいコレクションを発売するビジネスモデルですが、配色やスタイルを変えるだけではなく、有名人とのタイアップ企画を次々に発表したり、製品に希少価値をもたせることで、ファンのワクワク度を高めています。(このような限定販売をプロダクト・ドロップと言います。)
Nikeの人気コレクションは発売後すぐに売り切れになることで有名ですが、スニーカーが再販されることはありません。製品の供給数が多くなると、特別感を損ねてしまうからです。何週間も前に抽選に申し込んだり、仮想待合室で待ったり、メーリングリストに登録したりと、そうした努力を得てやっと手に入れられるからこそ、購入できたときの喜びが増し、思い出がより強く残ります。
ファンは、お目当ての商品を手に入れるための努力は惜しみません。そして、努力するほど期待が高まるため入手できたときの喜びが増し、購入後はその思い出が強く残ります。スニーカー業界はこの一連の顧客心理を利用してプロダクトドロップ戦略を成功させ、熱心なファンコミュニティを築き上げているのです。
その他にも例は多数
こうしたブランドへの期待感は、いたるところで活用されています。
例えば、エンターテイメント業界。映画を例に挙げると、作品概要、キャラクターのプロフィール、ポスター、予告編、俳優の記者会見と、作品の公開にいたるまでに、作品の告知が段階的に行われます。さらに、最近では上映終了後に続編を予告し、次作への期待をあおる手法もよく見られるようになりました。
コンサートやライブイベントも同様、ファンの期待で成り立っています。アメリカの大手チケットサイトINTIXの社長兼CEOモーリン・アンデルセン氏は、「アナと雪の女王のチケット販売において、ファンが買うのはチケットだけではなく、映画を見に行く楽しみや家族との外出に対する『期待』も込めてチケットを買っている」と語ります。
この記事は、期待の心理をうまく活用することでこのような効果が見込めると紹介しました。
- 購入までの間、興奮が持続する
- 手に入れたときの幸福感が増す
- 購入までの体験がポジティブな思い出として記憶される
こうした期待感を活用したマーケティング施策は、AppleやNikeなど大手ブランドに留まらず、様々なエリアで導入することが可能です。取り入れられる施策としてはこのようなものが考えられます。
- 先行販売と予約販売
- カウントダウン
- 製品発表イベント
- ソーシャルメディアでの告知
- 定期的なプロダクトドロップ
- 一般発売の製品レビュー
- ティーザー広告
- インフルエンサーマーケティング
- コンペや景品
あなたも、「期待の心理」を利用して、ブランド力をアップしませんか?